ことばの世界

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本ことば053【きいろいゾウ】西加奈子「ただ、もう、泣いている。笑うのと一緒だ。」

きいろいゾウ】 西加奈子

 

僕がツマのことを好きだと思うのは、こういうときだ。もう二十歳をとうに過ぎているのに、幼稚園の女の子のように泣く。うえーん、うえーん、とそれはそれにたくましい。女の人に泣かれると、たいていの男は弱い。僕もそうだ。何か自分が途方もなく悪いことをしたような気分になる。でも、ツマの場合は違う。泣くのを耐えたり、泣くことで何か自分の有利に持っていこうとしたりする感じがない。ただ、もう、泣いている。笑うのと一緒だ。鼻水を垂らして、よだれを垂らして、涙で頬をぐちゃぐちゃにしているツマを見ると、僕は、僕たちが何かとても正しい場所にいて、とても正しい生活をしているような気分になるのだ。

 

 

この前、思いっきり泣いた。

 

何で泣いているのかわからないくらいに

思いっきり泣いた。

 

 

自分でも驚いた。

 

泣くことに対する意味づけが

変わったように思えたから。

 

 

泣くのも

笑うのも

同じことだった。

 

 

我慢する必要がなくて

ただ、溢れてくるものだから

外に出していく。

それだけだった。

 

 

 

もちろん、

涙が出てくるということには

何かしら理由があって

こらえられない想いが

あったのには違いない。

 

 

だとしても

泣いたら得とか

そんなの考える余裕もなかった。

 

 

そもそも、

泣いたのは家の中で一人の時

ではなくて

仕事帰りのサラリーマンやOLがうようよいる

駅の中。

 

 

多少、人目を気にしたが

気にしたところで

おさえられるものではなかった。

 

 

 

 

泣いた自分は心地よかった。

ただ、泣きたかったのかもしれない。

 

 

損得関係ない。

自分がその時どうしたいのか。

 

 

 

これでいいのかどうかの

正しい、正しくないの判断なんて

どの位置に立つかで変わるから。

 

 

わたしは、

わたしの正しい位置に立てばいいんだと思った。

 

 

泣きたいときは

泣いていいんだ。ってね。

 

 

 

きいろいゾウ (小学館文庫)

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今までの「本ことば」のまとめはこちら。

 

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