本ことば096【言葉なんかおぼえるんじゃなかった】田村隆一「ほかの誰とも違う「好きです」「愛してます」を探すわけだ」
【言葉なんかおぼえるんじゃなかった】 田村隆一(語り)・長薗安浩(文)
たとえば、だ。
電話がここまで行き届くと、手紙を書かなくなる。手紙ってのは、思いを伝えるのに向いているんだ。まあ、そのためには言葉と字が大切になってくる。自分の思考や感情を表現するにふさわしい言葉を識(し)らなきゃ、一文字だってペンは進まない。たとえば、ラブレターを書こうと思うと、嫌でも言葉に敏感になるよな。ほかの誰とも違う「好きです」「愛してます」を探すわけだ。自分の感情にピッタリくる言い回しを、真剣にね。必死だよ、自分のためだから。
言葉を探す。
自分の想いと一致する言葉を。
わたしの脳内にある辞書を
めくりにめくって
言葉を探す。
そのたびに
自分の語彙力の乏しさに
もどかしさを感じずにはいられない。
だからこそ、
言葉に貪欲になっていく。
わたしの辞書のページを
増やしていくために
新しい言葉に会いにいく。
わたしだけの
「好きです」を
表現したいもん。
いや、
「好きです」でも
いいんだけど、
ストレートに
「好きです」で
問題があるわけじゃないんだけど、
同じ
「好きです」でも
どんな「好きです」かは
どれだけの言葉を総動員してるかで
変わるのです。
込める力が
確実に変わるのです。
だから、やっぱり
わたしだけの「好きです」を求めて
わたしは沢山の言葉を
手に入れたいと思うんだ。
わたしが、
わたしを表現するために。
わたしの想いを
誰かに伝えるために。
言葉なんかおぼえるんじゃなかった: 詩人からの伝言 (ちくま文庫)
- 作者: 長薗安浩,田村隆一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/11/10
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