言葉の世界

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【まく子】西加奈子「そ、そのときは、そのとき、初めて、俺は、ちゃんと、傷つくんだし。」

【まく子】西加奈子

 

「嘘だってど、どうして分かる?」

ドノは、ぼくのことをじっと見た。初めてちゃんと目を合わさなかったかもしれなかった。大人がぼくを見るような目ではなかった。

「どうしてって・・・・・。だって、ベランダから空に階段が伸びたとか、家に虎を飼ってるんだとか。あり得ないじゃないか。実際ぼくらは家を見に行ったんだ。階段なんてなかったし、虎あんんていなかった。」

「でも、でも、でも、類にはそう見えてたとしたら?」

「え?」

「類にはそう見えてるかもしれないし。空に通じる階段があって、庭には虎がいるって。類、虎の絵も描いていたし。」

「でも・・・・・・。」

「ど、ど、どうして信じてやらないのか分からないし。」

ドノは、今度こそ本気で傷ついていた。まるでドノが類だったみたいに。そしてぼくが、目の前にいる類を傷つけたみたいに。

「ドノは、類の言うこと信じるの?」

「信じる。」

ドノはすぐに答えた。はっきりとした声だった。ドノのいつもの、おかしな話し方ではなかった。

「俺は信じる。」

ドノが力をこめたのが分かった。ドノの手の中にある『チェンジ!』が、ぐにゃりと歪んだからだ。

「誰かが言うことを、俺は信じるし。それは嘘だって責める前に、どうせ嘘なんだしとかじゃなくって、俺は言葉通り、そのまま受け止めたいんだし。類が虎を見たっていうなら、それを信じるし、状況なんて関係ないし。そいつがそう信じてほしいことを、俺はし、信じるし。」

ドノは興奮していた。興奮していたけれど、『チェンジ!』を読んでいるときとは違った。あんな風に、みっともなくなかった。

「でも、嘘だったら?」

「な、なにが?」

「ドノが信じたことが、嘘だって分かったら?」

「そ、そのときは、そのとき、初めて、俺は、ちゃんと、傷つくんだし。」

「ちゃんと傷つく?」

「信じて嘘つかれるのが嫌だから、最初から信じないのは、い、嫌だし。俺は、全部信じて、じ、自分の頭で嘘だと分かって、分かってから、傷つくんだし。」

「・・・・・・。」

「お、俺は、そうしたいんだし。」

 

 

この本の中で今回、わたしが一番の一番に響いたところ。

 

もうこの文以上に、言う事はないのです。と言い切ります。

 

 

 

ドノのことは、

物語の途中までずーっと

冴えない、どうしようもないやつだな。と思ってた。

 

 

なのに、なのに、なのに。

 

この瞬間に、ドノを見る私の目がガラっと変わった。

 

人を一側面からだけで判断してはいけないね。

 

 

 

 

何が、どう響いたかと言いますと。

 

 

「信じること」を貫き通しているドノは

本気でかっこいい。

 

もし、嘘だったら、嘘だと分かったときに初めて傷つく。

 

 

 

私に足りていないのは、その覚悟だった。

 

 

初めから傷つきたくないかた、疑って。

疑うから信じきることが出来なくて。

でも、本当は信じ切りたくて。

 

このジレンマの中にいたんです。

 

 

 

もしかしたら、

疑い深い人は、誰よりも信じたい人なのかもしれない。

 

 

信じることの純粋さゆえに

本当に信じられるかどうかを吟味してしまう。

 

 

少なくとも、私はそうだ。

 

 

 

素直に信じすぎてバカにされてことも過去にある。

騙されたこともある。

 

 

騙されたで思い出した。

 

 

大学生の頃

悪徳商法的なものに引っかかったことを…

 

 

家を訪問してきた優しいお兄さん(おじさん?)を信じ切って

コンロの上にある換気扇に取り付けるフィルター(みたいなもの)を

購入してしまった経験があります。

 

1万円ちょっとしたかな。

大学生にとってはさ、1万円大きいよね。

 

 

親切に、モノの必要性を説明してくれて、

『そっか~、つけないといけないんだ』とそのまま信じたわたしは

購入してしまったわけです。

 

 

気分はルンルンですよ。

親切な人に会って、良い買い物をしたのですから。

 

 

 

この出来事を彼氏さんに話した時に

騙されていたことに気が付いたわけです。

 

 

「普通、おかしいと思うでしょ」

と言われましたが

 

怪しい壺を売られるならさすがに疑ったかもしれませんが

信じ切ってたわたしは、おかしいと1ミリっも思わなかったんですね。

 

 

で、後になって

ガーーーーーーーーーンとまんまと傷ついた。

 

 

 

という、一連の経験を思い出しました。

 

 

この時わたしは

「でも、人を疑うなら信じたほうがいいもん」と

思っていたんです。

 

 

今も、

あえて嘘をついたり、だます人はいないと思っています。

 

 

そういう世界で生きていたいの。

人を信じたいの。

 

 

相手の見た世界をそのまま信じたいの。

 

 

 

キーワードは「信じる」です。

 

 

 

まく子 (福音館の単行本)

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