本ことば065【十二歳】椰月美智子「何かになれる人はもうこの時点で、その何かに近づいているような気がするから。」
【十二歳】椰月美智子
「あーあ、よかったねえ。さえはいい子だから、なんにでもなれるさ」
そう言って、おばあちゃんはにっこりと笑った。
おばあちゃんは、昔から私に、「さえはなんにでもなれる」と、口ぐせのように言ってくれる。もちろん、私もなんにでもなれるって思ってる。思ってるけど、最近よくわからなくなってきた。だって、何かになれる人はもうこの時点で、その何かに近づいているような気がするから。
「その何か」は
一体、なんなのだろう。
人は
何に近づいて
何から離れていくのだろう。
自分という存在から
離れて何かになるのではなく
自分が自分のままにいて、
そこに
何かが近づいてきてくれるのが
わたしの理想だな。
わたしは
【何】になりたいのだろうか。
【何】って、
いったい何?
役割を生きるわたしは
その役割が同化してきて
自分と役割との
境界線がわからなくなる。
わたしは
わたしを追い求め、
誰よりも
【わたし】になりたいと願うようになった。
【何か】になるよりも
【わたし】でいることのほうが
よっぽど難しい。
そして
【わたし】でいることで
実は
何ものにでもなれる扉が
実は開くのかもしれないね。
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